Dissertation
Natural-Dyeing / 天然染色
人の手を通した多くの工程で染めるほかない天然染色は生産に時間と手間がかかり、効率は化学染色にはるかに劣るが、その独特の色彩の奥行きは他では得られない魅力を備えている。
| Category: | Processing |
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| Date: | 2026.08.26 |
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| Tags: | #fw26 #indigo #naturaldyeing #naturalindigo #visvim #visvimharmoniousprocess #天然染色 |
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人の手が生む『不均一さ』のフィーリング
若い頃から、古い時代のものに心惹かれて手に取ることが多く、「その魅力の本質は一体何だろう?」と考えてきました。たくさんのものを見て、触れて、感じることで辿り着いた答えのひとつが、そのものの中に潜む「不均一さ」のフィーリングでした。
現代のように大規模な量産が可能になる以前の社会では、ものづくりは比較的小規模で、多くの部分が人の手によって作られていました。人間が作り出すものは、機械が生産するもののようにすべてが完璧に均質ではありません。機械よりもずっと時間や手間がかかる上に、ひとつひとつに揺らぎや歪みなどの微差が生じることになります。そうした「個体差」は現代の一般的な産業においては排除すべき要素と捉えられてしまいますが、僕にとってはそうした不均一でパーフェクトでない部分こそが、人間らしい"個性"であり、心に響く大きな魅力だと感じられるんです。

そうしたものを自分たちでも生み出したいという思いから、長年にわたり取り組んできたことのひとつが、植物や動物などの自然の力を利用して布を染める天然染色です。藍を原料として青く染める「藍染め」、奄美大島の大島紬などに使われてきた「泥染め」など......
現代のほとんどのプロダクトの染色に使用されている化学染料が一般的になる以前には、長い時間の中でこうした天然染色の技法が培われてきました。僕たちはものづくりの際、カラーパレットとして昔の日本の草木染めの見本帳をよく使いますが、同じような黄色にもすごく多彩なバリエーションがあって、伝統的な日本の色表現の繊細さと豊かさに驚かされます。こうした文化と技術を受け継ぎながら仕事をする数少ない職人の方々にご協力をお願いし、ものづくりを続けてきました。

天然染めは化学染料に比べて仕上がりが不均一で、その色には微妙な濃淡が生まれます。ひとつひとつに異なるその色合いには、やはり化学染料には出すことのできない深い味わいがあります。もちろん職人の方々は、あえて不均一に仕上げようとしているわけではなく、むしろなるべくムラが出ないよう努力されています。それでも人の手を通じた工程の中で自然に生まれてくるわずかな揺らぎこそ、自分たちが求めているものです。そうした協働のプロセスでは、長く仕事を続けてきた職人の方々も気が付かなかった新しい発見が生まれることもあります。例えば、現代のスニーカーを天然染めで作ってみたらどうだろう、と提案することで、これまでにない発想と視点による新しいプロダクトが生まれたり。難しい試みですが、かつての時代のものたちのように、長い時を経てさらにその魅力が感じられるような、現代的なものづくりに挑戦していきたいと思っています。
中村ヒロキ



柔らかく深みある色が生まれるまで
自然の色を利用して布を染める ーー19世紀にヨーロッパで化学合成による人工的な染料が作られ、急速に広まるまでの長い歴史の中では、世界各地で草、木、花などの植物や鉱物、貝など身近な素材を使って天然の染料とする技法が育まれてきた。
合成染料は化学的に安定した成分により均一でヴィヴィッドな発色があり、再現性が高く、褪色にも強いため、工業的な大量生産品に適している。それに対して天然の染料は自然由来の色の柔らかさと不均一さがあり、それぞれに微細な違いをもつ自然の素材により一つひとつ固有の複雑な表情が生まれる。また時間の経過や使用による摩擦などで少しずつ色褪せていくことで、深みある味わいが日々増していく。人の手を通した多くの工程で染めるほかない天然染色は生産に時間と手間がかかり、効率は化学染色にはるかに劣るが、その独特の色彩の奥行きは他では得られない魅力を備えている。

バラ科サクラ属の落葉高木。染色には実ではなく、枝や樹皮、剪定材を煮出して用いる。タンニンを含み、媒染によってやわらかなピンクやベージュへ変化する。自然由来の淡く奥行きのある色味が特徴。
染色:PINK


そんな長い歴史を持つ天然染色技法の一つである「草木染め」と「藍染め」に取り組んでいる東京・青梅市の工房で、〈visvim〉のプロダクトの染色が行われている。
製品化された染料でない、不安定な天然の素材で狙った色を出すことは容易ではない。何度もテストを繰り返し、各染料の分量、布を漬ける時間と回数を変えて調整し、サンプルの色に近づけていく。それを可能にするのは、豊富な仕事の経験から得たデータと職人の勘。工房内のホワイトボードには、それぞれの色に応じた染料の素材や量、作業工程が細かく書き込まれている。グレーはチョウジ、グリーンはエンジュとクチナシ、イエローはエンジュとヤマモモ......ピンクを生み出すウメの染料は、地元で採れた枝から煮出して抽出しているという。

マメ科の落葉高木。街路樹や寺社にも見られる木で、染料には主に「槐花(かいか)」と呼ばれる花蕾(つぼみ)を用いる。キハダと重ねることで淡い黄色に、クチナシと掛け合わせることで澄んだ緑の色味を生む。
染色:LT.YELLOW, LT.GREEN

ミカン科の落葉高木。樹皮の内側が鮮やかな黄色であることが特徴。古くから仏教関係の装束をはじめ、和紙、木綿、麻など幅広く使われてきた。黄色を象徴する天然染料のひとつ。
染色:LT.YELLOW

アカネ科の常緑低木。初夏に白い花を咲かせ、秋から冬にかけて熟す赤橙色の果実を染料に用いる。古くから黄色系の染料として、また食品の色づけとしても親しまれてきた。エンジュと重ねることで、淡く爽やかな緑の表情を生む。
染色:LT.GREEN

まず色の発色や定着を助ける、銅や鉄などの金属を使った媒染液にスウェットやジャケットを十分に浸す(銅の場合は一時的に青く染まる)。それを二人がかりで絞り、その後、小さな釜の中で温度やpHが正しく管理された染液に漬けると、すぐに布を広げ、大きな色ムラが出ないよう絶えず手を動かし続けて、布全体をじっくりと染めていく。5分ほどの工程だが、水の中で重い繊維を動かし続ける作業は体力を要する。また当然ながら一度染まってしまった繊維を元の色に戻すことはできないため、常に一定の緊張感を保ち続ける必要がある。
染め終わったら水洗いをし、脱水機にかける。これらの作業は、すべて"一着ずつ"行われる。次の一着を染めるために、染料を流して釜を洗い、新たな染料を入れ、再び熱にかけて適温にする。少しの温度差で色味が大きく変わってしまうので、丁寧な管理が欠かせない。この工程を幾度も繰り返して、適切な色に染め上げていく。
工房内の別室では、シューズとジャケットの「藍染め」も行われている。藍を原料として青く染める「藍染め」は人類最古の染料とも言われ、その歴史は紀元前にも遡る。日本には奈良時代に中国、朝鮮半島を経て伝来し、原料となる植物「蓼藍(たであい)」を発酵させて堆肥状にした「すくも」を使って染める、日本独自の藍染めの技法が確立された。同工房では、江戸時代から続く「天然藍灰汁醗酵建」の技法にこだわり続けている。化学的な還元剤を一切用いず、自然由来の発酵菌を利用して染色を行う伝統的な技術だ。
約一年間をかけて乾燥・発酵させたすくもに、酒やふすま(小麦の皮)などの栄養分と、広葉樹の灰による「灰汁」を加え、温度管理しながら毎日、撹拌する。これにより液が発酵し、藍の色が溶け出していく。この液に浸された繊維が空気に触れると、酸化により鮮やかなブルーの発色が生まれる。生きている菌は日々、その性質とバランスを微妙に変化させるため、管理には高い経験値と多くの労力がかかる。



藍の染液を貯めたプールに、職人がシューズを両手で持ち、そろりそろりと慎重に漬けていく。全体が浸かったら、縫い目の部分にも染料がしっかり染み込むよう、生地を揉み込んでいく。色の濃い藍汁の中にあるシューズは目に見えない。手でその感触を確かめながら1分ほど漬け込み、染液から出すとすぐに水にくぐらせ、酸化を遅らせる。ほんの数十秒でも色が変わるため、その動きは素早く行わなければならない。この工程を繰り返して、意図した濃さの色に近づけていく。

こうした骨の折れる作業を続けることで、ひとつのプロダクトが染め上がる。自然素材だからこその難しさと手間ひまとともにある、柔らかく深みのある色彩の魅力。それぞれに違った姿に育ち、愛着が日々深まっていくプロダクトの背後には、長い歴史の中で培われてきた技術と、手仕事にかける職人の思いが込められている。
文:井出幸亮
写真:深水敬介







